部会の活動

 IPPM-OWSでは、動物園などの施設で飼育されているコウノトリの保全(域外保全)に取り組む域外保全作業部会と野外に生息するコウノトリの保全(域内保全)に取り組む域内保全作業部会を設置しています。
 両部会が連携しながら、様々な活動を実践しています。

域外保全とは

域外保全とは、本来の生息域ではない場所(飼育下)で行う保全のことです。
域外個体群は、放鳥個体の供給源としての役割や域内個体群に万が一の事態が発生した場合の「保険」としての役割を担っています。
域外個体群を持続可能な状態で維持するためには、より多くの個体を飼育し、遺伝的多様性をできる限り維持することが必要です。

域外保全作業部会の構成団体と取り組み

域外保全作業部会は、コウノトリの飼育施設を中心に構成されています。
ここでは、国内飼育施設の個体を一つの個体群とみなして個体群管理計画を策定し、参加機関・施設が協力してその計画を実行できるよう支援しています。
また、そのために必要な飼育技術の開発や研修、広報活動に取り組んでいます。

活動内容

域外保全作業部会の主な活動をご紹介します。
域外個体群の個体数維持や、遺伝的多様性の維持を図るための管理計画の策定と実施の支援
人口統計学ソフトPMxを活用し、分析によって得られたデータを基に、域外個体群管理計画を策定しています。
この計画に基づき、遺伝的多様性に配慮したペア形成や繁殖管理などを行うことで、適切な個体群の維持に努めています。
繁殖のコントロールには、有精卵の施設間移動なども含まれており、動物に負担をかけない管理を目指しています。
飼育や治療等の技術の向上
コウノトリの捕獲や繁殖技術などに関する研修等を実施し、飼育技術の普及と向上を図っています。
また、新規飼育希望施設などへの各種助言なども実施しています。
コウノトリの医療に関するデータの共有を推進しています。
域外個体群の管理に関する研究及びその成果の発表
域外個体群の血統登録に関する情報をIPPM-OWS内で共有し、個体群管理のためにデータの分析を行っています。
得られた分析結果は、専門家向けの会合などで活用しています。
一般市民を対象として講演会を開催し、IPPM-OWSの取り組みと各種研究成果の発表を通じてコウノトリ保全について普及に努めています。
普及啓発活動の推進
イベント等により、コウノトリの野生復帰や保全に関する普及啓発活動を行っています。

域内保全とは

域内保全とは、その種が本来生息している地域(野外)で行う保全のことです。
日本の野生コウノトリは、1971年に絶滅したため、飼育下で孵化・育成した個体を生息地に再導入する方法により、域内保全が始まりました。
2007年以降は毎年、野外での繁殖が確認され、野外個体数は着実に増加しています。
しかし、餌生物の増加に必要な水系のつながりが不十分であること、野外巣立ちに成功する家系に偏りが見られ、近親婚リスクが高まっていること等、様々な課題もあります。

域内保全作業部会の構成団体と取り組み

域内保全作業部会は、コウノトリの野生復帰に取り組む機関・施設で構成されています。 域内保全に関する課題解決を図るためには、地域住民のほか、地域の多様な団体や関係省庁などとの連携が不可欠です。 域内保全作業部会では、それらの団体や省庁と協力し、必要に応じて支援することで生息地拡大を目指しています。

活動内容

域内保全作業部会の主な活動をご紹介します。
科学的知見に基づいた域内個体群の管理
域内個体群のデータベースの作成、域内個体群の遺伝的な分析、分析結果に基づく個体群管理計画の策定を行っています。
野生復帰に取り組む地域や機関への支援
域内個体群の生態に関する科学的な解析、個体群管理に関する技術支援(野外繁殖個体の個体識別等)を行っています。 コウノトリの新たな繁殖地の形成に向けて取り組んでいる地域への支援・助言を行っています。
普及啓発活動の推進
イベント等により、コウノトリの野生復帰や保全に関する普及啓発活動を行っています。
野外個体に関する情報発信
野外個体検索システムを一般公開し、各地に飛来する個体情報をスマートフォンなどで瞬時に知ることが可能なシステムを運用しています。
野生復帰に関連する様々な技術の向上
野外個体群の管理に関する技術研修等を実施しています。

活動の実例

域外・域内個体群の管理計画の策定と実施

IPPM-OWSでは、域外及び域内個体群の遺伝的多様性の維持を図るため、個体群管理用の分析ソフトを用いて個体群管理計画を策定しています。
また、計画の実施に当たって、参加機関・施設が賄いきれない経費の一部について、IPPM-OWSが負担することもあります。
また、参加機関・施設間で技術支援などが適切に行われるように助言しています。
人口統計学ソフトPMx

IPPM-OWSでは、PMxという個体群管理用の人口統計学ソフトを活用しています。
このソフトを用いて、創始個体(飼育下に入り、繁殖を行う第1代目の個体)以降の家系に関する情報や、性別、生年月日などの個体情報をもとに、繁殖成功率や繁殖期間などの人口統計学的分析、個体群全体の遺伝的な相互関係や将来予測、新たなペアからヒナが誕生した場合の個体群に与える遺伝的多様性への影響などを分析することができます。

有精卵の移動

個体群の維持を図るためには、遺伝的多様性の確保が重要な課題となります。
IPPM-OWSでは、科学的根拠に基づいて個体群管理計画を策定し、参加施設間でコウノトリを移動させることにより遺伝子交流を図っています。
この遺伝子交流は、有精卵の移動によって実施することが増えてきました。
これは、コウノトリの生体を輸送するよりも、ケガのリスクや輸送費用などが少ないためです。
一般的にコウノトリは、抱卵中に卵を交換してもそのまま抱卵を続け、フ化したヒナを育てます。このため、他施設から運んできた有精卵と抱卵中の卵を入れ替えることで個体を移動したことと同じ効果が得られます。
列車内での輸送の様子

輸送する際は、発生後期の有精卵を携帯用フ卵器(輸送用の小型フ卵器)に入れ、鉄道で運びます。
発育途中の有精卵は、揺れや振動が原因で発育が止まってしまうことがあるため、輸送中は携帯用フ卵器を膝の上に載せ、極力揺れや振動が有精卵に加わらないように気配りをしています。

野外個体の識別

野外のコウノトリに装着している足環

放鳥した個体や野外で巣立ちした個体には、個体を識別するための足環(カラーリング)が装着されています。
足環の色は個体ごとに異なっています。これにより、行動範囲やペア形成の状況など、野生個体に関する基礎情報が取得できるため、研究や事業の進捗状況把握に役立ちます。 再導入個体群のほとんどすべての個体が標識されている例は、世界的にもまれな事例です。
IPPM-OWSでは、足環装着の実施主体へ足環の提供を行うとともに、必要に応じて足環装着のための作業車の借り上げを行っています。

研修の実施

巣内ヒナの捕獲研修

IPPM-OWSでは、様々な機会をとらえて参加機関・施設全体の技術力向上を目的に研修を実施しています。
これまでに実施した研修は、飼育下繁殖に関する研修(フ卵器の取り扱い等)、個体の捕獲に関する研修、野外個体の足環装着に関する研修などです。